WHITEHOUSE

WH-021

「モノラルズ」

・ARTIST

荒木優光

大城真

大和田俊

小松千倫

田上碧

土井樹

安原杏子a.k.a青椒肉絲

涌井智仁

・AVENUE

WHITEHOUSE

 

DATE

4/28 FRI – 6/4 SUN

 

OPEN

15:00 – 20:00 

 

CLOSE

MON,TUE,WED,THU

 

・FEE

500YEN

MEMBER / FREE

 

 

 

・CURATOR

涌井智仁

 

・Co-CURATOR

土井樹

仲山ひふみ

 この度WHITEHOUSEでは、グループ展「モノラルズ」を開催いたします。

 「モノラルズ」という言葉は、この世界の極めて単純な状態を指し示す言葉です。
 我々が感知できる世界(もしくは想像し得る世界)は無限の数のモノラルによって構成されています。モノラルとは、ある実在から発せられた1つの音であると人間が認識したもの、という風にここでは定義します。この世界はそのような実在の数だけ存在するモノラルの並列的な重なりによって、複雑な音響空間を作り出しています。我々の周辺世界だけでも、極めて無数のモノラルの音シグナルに溢れていることは誰にとっても自明でしょう。当然ですが、それら無数のモノラルたちはほとんどが人間に配慮をしません。多くのモノラルたちは非可聴域の周波数や超音波を発したり、極めて小さい音量で定位しているものたちです。しかし、人類ははるか昔からそれらさえも身体や2つの耳を使って、うまく処理しながら生活を営んできました。そのように本質的には耳とは無関係に存在していたモノラルや音と人間の関係に大きな変化をもたらしたのが、オーディオの発生です。オーディオは、その機械の魔術的な魅力以上に人間の知覚を決定的に方向づけていってしまいました。
 エジソンの発明したフォノグラフと呼ばれる蓄音機によって再生された「メリーさんの羊」は、今まさに歌っていたエジソンが再び亡霊のように回帰し、舞台上に現れたような錯覚を観衆に覚えさせました。そこから現在まで続くオーディオ体験は、人間の音の世界に「のようなもの」を与えると同時に、人間の可聴域(20Hzから20kHz)以外の音への想像力を吹き飛ばすほどのイリュージョンを引き起こしました。その極めて縮減された形で再生された近過去の亡霊の登場によって、我々は世界の複雑な音響空間さえも予め再生されたものとして聴くような客観的知覚を得たのです。そのようなオーディオ的知覚はステレオの登場によってさらに現実から遠い距離を描いていきます。縮減された音の亡霊は、2つのスピーカーと人間の2つの耳による両耳効果によって、ファントムセンターと呼ばれる空間の亡霊へと変貌していきます。ステレオとファントムセンターによって体験できる疑似-世界の音響は、我々の知覚にさらに強烈な麻酔をかけ、もはやオーディオ以前の複雑な風景を想像することすら出来ない程、感覚を麻痺させているように思えます。
 音はステレオの持つ象徴的意味によって束縛を受けているのです。そして恐らく、環境を最大公約数的に縮減し疑似-世界の体験を環境の認識へと戻す、この一連のフィードバック/オーディオ的知覚は、音だけでなく、我々があらゆる他者と向きあう際に無自覚的に発揮されてしまっている知覚でもあるように思えます。

 「モノラルズ」とは、ステレオ以降のオーディオ的知覚を一度清算するために用意された言葉です。複数形のsは、マルチチャンネルではなく、バラバラに存在するそれぞれ単一のもの、というこの世界の基本的な構成を表しています。
 参加していただくアーティストの皆さんには、基本的には音で、かつモノラルフォーマットで作品を用意していただきました。ステレオを経由して回帰してきたモノラルの体験は極めて不気味なものに感じると思います。しかし、そこから始められる新しいフォルムが必ずあるという予感を感じていただきたいです。そして、未だ隠され続けている次元を探り当てること、それはステレオを通過した今の我々の聴取によってしか辿り着けない地点であると確信しています。立体音響やVRなど、時代に寄り添って様々な新しい音響メディアが登場しますが、それらは全てステレオの想像力によって生み出されています。これからも徹底的に音と環境の切り離しは行われ続けるでしょう。その前に一度立ち止まって別のラインを想像するために、素晴らしいアーティストの皆さんによるモノラルの想像力を目一杯体験していただきたいです。

 WHITEHOUSEのスペースでは初めてのグループ展企画となります。音の作品ばかりなので、できれば気兼ねなくゆっくりできる時間を見つけて、遊びに来ていただけたらと思います。

涌井智仁

 

 この展覧会は土井樹くんとのある日の雑談から始まりました。僕は呆れるほど色んなディテールを忘れてしまうんですが、恐らくは「マルチ・チャンネルの体験が好きじゃない。舞台とかでスピーカーが囲みであるとガッカリする。ステレオがバーンとあって、ドカンと鳴るのが好きだ。」とかを樹くんに言ったのだと思います。で、数回の会話のラリーの後、多分樹くんは「それやったら、モノラルだけでライブやるのとかよくない?」とか言ったんだと思います。それから何度もそれを思い出してはライブの風景を空想してきましたが、一向に脳内に像が結ばれていきませんでした。この世界にはステレオしかないという基本的な事実が、僕を驚愕させたからです。僕はもはやモノラルのライブを想像することができなくなっていた(初めからできない?)のです。しかし、このこと自体を何かカタチにする必要があることだけは確信しました。
 そして、ライブから展覧会に頭を切り替え、ここまで急ピッチで作業を進めてきました。急なお誘いにも関わらず、ご参加していただいたアーティストの皆さんには感謝しかありません。各々のアーティストの皆さんがあらゆる手法で音と向き合って制作なさってきたこと、そのこと自体が、僕が捉えようとしているモノラルの想像力/モノラリズム「のようなもの」にとって、大きな恩寵でありました。コキュレーターとして、友人として、この展覧会を支えてくれた仲山ひふみくんも本当にありがとうございました。
 僕はきっとまだあの実現され得ないモノラルのライブの幻聴に誘われています。その幻が醒めるまでこのプロジェクトは続けていきたいな、と思っています。

コキュレーターの仲山ひふみによる本展覧会へ向けたテキストも併せて以下のリンクから読んでいただけたらと思います。

「モノラル、サブオブジェクティヴ・フィクションズ」

荒木優光 / MASAMITSU ARAKI

1981年山形県生まれ。アーティスト。音楽やフィールドワークを起点として独自の音場空間を構築し、シアターピースやインスタレーションなど多岐にわたる作品を発表。主な上演に『サウンドトラックフォーミッドナイト屯』 (KYOTOEXPERIMENT、2021年)、『パブリックアドレス–音場』(Kunstenfestivaldesarts、2021年)、主な個展に「そよ風のような、出会い」(gallery αM、2022年)など。サウンドデザイナーとしてのコラボレーション活動や、アーティストグループARCHIVES PAY、音楽グループNEW MANUKEのメンバーとしても活動。2023年度セゾン文化財団セゾンフェローⅠ。

makoto_oshiro

大城真 / Makoto Oshiro

音を出すために自作した道具、または手を加えた既製品を使ってライブパフォーマンスを行なう。またそれと並行して音や光の干渉に着目したインスタレーション作品を発表している。近年は川口貴大、矢代諭史とのユニット“夏の大△”としても活動している。CD等のリリースに『夏の大△』(DECOY、2013)、『unellion/variation』(円盤、2013)、『Phenomenal World』(Hitorri、2014)、『a rose with no name (Sorry)』(ftarri、2019)。主なイベント・展覧会に「夏の大△」(梅香堂、大阪、2010)、「Mono-beat Cinema」(NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]、東京、2010–2011)、「現実のたてる音」(ARTZONE 、京都、2015)、「mono-poly」(sobo、東京、2017)、「Tsonami Arte Sonoro 2017」(Galería de Arte Municipal de Valparaíso、バルパライソ、チリ、2017)「空白より感得する」(瑞雲庵、京都、2018)、「No Idea 2020」(複数会場、オースティン、米国、2020)、「Playfreely: Nervous Systems」(Goodman Arts Center、シンガポール、2021)など。

大和田俊 / Shun Owada

1985年栃木県生まれ。アーティスト。現在、東京を拠点に活動。音響と、生物としてのヒトの身体や知覚、環境との関わりに関心を持ちながら、電子音響作品やインスタレーションの制作を行なっている。東京藝術大学音楽環境創造科卒業、同大学院先端芸術表現専攻修了。
近年の主な個展・プロジェクトに、「地球をかたづける」(札幌文化芸術交流センター SCARTS、札幌、2021-2022年)、「破裂 OK ひろがり」(小山市立車屋美術館、栃木、2020年)など。近年の参加グループ展には、「no plan in duty」(PARA、東京、2022年)、「「新しい成長」の提起 ポストコロナ社会を創造するアーツプロジェクト」(東京藝術大学美術館、2021年)、「WRO Biennale」(ポーランド、2019年)、「Ars Electronica 2018」 (オーストリア、2018年)、「不純物と免疫」(トーキョーアーツアンドスペース本郷、東京、2017年)などがある。

kazumichi komatsu

小松千倫 / Kazumichi Komatsu

1992年高知県生まれ。音楽家、美術家、DJ。これまでに様々なレーベルやパブリッシャーより、複数の名義で膨大な数の音源をリリース。また、情報環境下における身体と表象の関係、その記憶や伝承の方法について光や歌といった媒体を用いて制作・研究している。主な展覧会に「FAKEBOOK」(Workstation.、東京、2016)、『Bee Wee』(TALION GALLERY、東京、2020) 、『惑星ザムザ Planet Samsa』(牛込神楽坂、東京、2022)など。
主なパフォーマンス・コラボレーションに「SonarSound Tokyo 2013」(Studio Coast、2013 )、「ZEN 55」 (SALA VOL、バルセロナ、2018)、「Untitled」 (Silencio、パリ、2018)、「Genome 6.66 Mbp VS Dark Jinja」(ALL、上海、2018)、イシャム・ベラダ「Présage」(横浜トリエンナーレ2020 エピソード00、横浜、2019)、PUGMENT 「Purple Plant 」(東京都現代美術館、2019)など。

田上碧 / Aoi Tagami

ヴォーカリスト。 2014年頃より、野外から劇場空間まで幅広い場で体ひとつで歌うことから活動を始める。歌うことの行為や現象としての側面を浮き彫りにするパフォーマンスや、歌と語りを織り交ぜた楽曲の演奏、即興演奏や詩作など、シンプルな実践を通して声と身体による表現の可能性を探っている。2019年、インドネシア滞在を経てヴォイスの即興演奏を始める。歌・語り・ヴォイスなどを織り交ぜた長編の歌『触角が無限にのびる虫』(2020)の発表を経て、2022年からは自作曲の弾き語りを中心に活動中。

土井樹 / Itsuki Doi

1989年兵庫県生まれ。
2019年、東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻修了。学術博士。
株式会社 Alternative Machine シニアリサーチャー。 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻特任研究員。人工システム内に創発する主観的時間などのテーマで研究をするとともに、アート/音楽作品の発表を行っている。 主な展示に『Blues』(Place by method, 東京, 2017)、『Bee Wee』(TALION GALLERY、東京、2020)、『陰影のリビジョン』(TALION GALLERY、東京、2021) 。主な音楽作品に『Peeling Blue』(CD, 2018)。

Monaural, Sub-objective Fictions

仲山ひふみ / Hifumi Nakayama

批評家。主な寄稿に「「ポスト・ケージ主義」をめぐるメタ・ポレミックス」(『ユリイカ』2012年10月号)、「聴くことの絶滅に向かって──レイ・ブラシエ論」(『現代思想』2016年1月号)、「加速主義」(『現代思想』2019年5月臨時増刊号)、「マーク・フィッシャーの思弁的リスニング」(『web版美術手帖』2019年9月5日)、「ポストモダンの非常出口、ポストトゥルースの建築──フレドリック・ジェイムソンからレザ・ネガレスタニへ」(『10+1 website』2019年10月号)、「「リング三部作」と思弁的ホラーの問い」(『文藝』2021年秋号)。また、手売り限定の批評誌『アーギュメンツ#3』(2018年6月)を黒嵜想とともに責任編集。

kyoko yasuhara

安原杏子a.k.a青椒肉絲 / Kyoko Yasuhara

1990年広島生まれ。アーティスト、ビデオグラファー。
表現と被写体・モチーフの距離を美術や映像、音楽、3DCG等の様々な表現を通して発明している。
グループ展「sensitivity」(rusu, 東京, 2021年)