平野真美は1989年岐阜県出身。2014年に東京藝術大学大学院美術研究科修士課程先端藝術表現専攻を 修了。現在は同専攻の博士後期課程に在籍しながら、名古屋造形大学情報表現領域の特任助教を務めてい ます。 2014年の修了展で平野の作品と出会い、2018年の初個展『蘇生するユニコーン』(ギャラリーマルヒ) 以降、今展に向け彼女と日々の制作や日常についてやりとりを交わしてきました。ナオ ナカムラでは初個展です。
平野は、不在の存在と向き合いその対象を忠実に再現することで、実在・非実在生物の生体構築や生命の保存、蘇生を試みる作品を制作しています。
『保存と再現』では、平野の愛犬が骨髄の病で闘病生活をおくる中、死に近づくその姿を今この手元に留 めようと、衰弱して横たわる愛犬の佇まいのみならず、毛皮に覆われたその先で愛犬を生かす骨や筋肉、 内臓などあらゆる器官もできる限り忠実に再現し、さらに肺には人工呼吸器の代わりとなるエアーコンプ レッサーを繋いで生命維持を施しました。 愛犬の死後にはじめた『変身物語』では、自宅の骨壷で眠る愛犬をもう一度愛でたい想いと、封を解くことで骨壷に詰まった愛犬との愛おしくかけがえのない日々を失ってしまう怖さとの葛藤から、骨壷ごと CTスキャンし3Dプリンタで出力、遺骨を型取り、骨の質感など再現性が高い技法を用いて硝子や陶磁へ、”姿形を変えても魂はここに存在する”その変身過程を彼女なりの葬法としました。
そして、愛犬が亡くなったとき制作に取りかかっていたのが今ではライフワークとなっているユニコーン (一角獣)のプロジェクトです。 平野が幼少期にその存在を信じてやまなかった純真さの象徴とされる架空生物のユニコーンは、成長とともに実在しないと分かり、幻と消えたユニコーンを自らの手で生み、生命維持装置による呼吸と血液循環 で蘇生することで私たちがかつて抱き、やがて失っていった夢や希望や幻想の蘇生にもアプローチしていきます。
今展では、2014年から制作してきたユニコーンと、現在新しく制作を進めているユニコーンの一部のパーツ(頭蓋骨、一角、眼球、視神経など)を対峙させるとともに、ユニコーンのベースとなる原寸の設計図や、クオリティをあげるため繰り返し型取り形成していくその過程で生まれた失敗とされる複数の頭蓋骨も併せて展示予定です。 前作の『変身物語』から学んだ愛犬の遺骨の形状などを参考にしてユニコーンの新たな骨格を制作し、ま た、ユニコーン同士を対峙させる理由について彼女は、”新しく制作するユニコーンに今まで制作していたユニコーンのことを知っておいてほしいし見せておきたいから”と、そこに横たわる作品を超えた尊い存在へ真摯に向き合い続ける敬意と誠実さで溢れています。 ユニコーンを想像しながら骨の表面に架空のテクスチャーを付加して本物に近づけていく行為の不思議さ と、同時に架空生物の本物とされるものは何か、そのあわいを感じていただけましたら幸いです。
平野真美による『架空のテクスチャー』をこの機会にどうぞご覧ください。
中村奈央