WHITEHOUSE

 

metaPhorest Biome

生物学実験室におけるアートの生態系

【開催日時】

2024年7月6日(土)〜7月28日(日)※金土日のみ開廊

金  16:00~20:00
土日 14:00~20:00

 

【場所】

WHITEHOUSE

東京都新宿区百人町1-1-8

 

【入場料】

500円

【参加作家】

AKI INOMATA

Anais-karenin

BCL/Georg Tremmel

Henry Tan

飯沢 未央

石橋 友也

岩崎 秀雄

植村 和俊

切江 志龍

齋藤 帆奈

杉浦 真也

藤岡 慧

松村 寛季

【主催】

metaPhorest(早稲田大学生命美学プラットフォーム)

【キュレーション】

塚本 隆大(企画)、齋藤 帆奈、石橋 友也

【協賛】

科学研究費補助金 基盤研究(B)「モアザンヒューマンの美学――動物論的転回以降の感性論的可能性」

【問い合わせ】

info.metaphorest@gmail.com

 現在、我々の「生命」の概念が大きく揺らいでいる。

 クローン技術や遺伝子編集、人工細胞の登場など、生命科学の発展は、人の手による生命の編集と創造を可能とした。また、AI技術の急速な伸張は、ChatGPTのような、人間とのコミュニケーションを可能とする人工物を生み出した。今日では、気候変動の問題を背景に隆盛した人新世の思想などが、人間中心的な生命観の見直しをうながしている。
 こうした背景のもと、生命科学の展開を参照したいわゆるバイオメディア・アートや、今日の「環境」概念を再考するエコロジー・アートの潮流が世界的な盛り上がりを見せてきた。

 本展示の主体であるmetaPhorestは、生命科学や生命論の展開を参照しつつ、「生命」を巡る美学・芸術の実験・研究・制作を行なうための生命美学プラットフォームである。2007年より、早稲田大学先端生命医科学センター岩崎秀雄研究室を拠点とし、生命に関心を持つアーティストが長期に渡り滞在し、実験設備を共有しながら制作を行ったり、あるいは関係する研究者や学生らが生命科学や人文学を横断する多領域的な活動を展開してきた。これらを通して、国内外での生命科学にまつわる芸術実践をリードしてきた。

 2013年以来のグループ展となる今回は、metaPhorestでなされてきた「生命」への探求の成果を、作中に登場する生物種や、制作者であるアーティスト・研究者を含む生態系としての「Biome(生物群集)」として提示する。それは、冒頭に紹介した近年の「生命概念の揺らぎの問題」と響き合うものとなる。

 また、本展示では以下の二点にこだわり、いわゆるバイオメディア・アートの鑑賞経験に新たな広がりを与えようと試みる。

 第一に、作品を目の前にして、そこに生きる生体から感じ取れる生々しい鑑賞経験だ。いわゆるバイオメディア・アートは、作品の写真や映像といったアーカイブを中心とした展示形式をとることも多い。しかし、本展示では、生物の物質性や実在性に着目し、生きものであり、芸術作品でもあるという特殊な存在との直接的な対峙を重視する。 
 第二に、アーティストと、長期に亘って制作上のパートナーとして存在してきた、『伴侶種』としての生きものとの関係だ。生物学的な視点や手法を導入した芸術実践においては、取り扱う生物への知識や技術が要される。また作品制作においても、生物の成長や死滅、世代交代といった通常の作品制作とは異なる時間の流れが存在している。いわゆるバイオ・メディアアートには、作品という結果に至るまでの、他種との時間と記憶が隠されている。

 15年以上に渡るmetaPhorestの歴史の中で、多くのアーティストたちが自らの伴侶種となるような生き物たちを見つけ、関係性を築いてきた。 本展示は、そうした過程の一部でもある、実験記録やフィールド・ノートなども併せて見せることで、作品の後景への接近を図る。

AKI INOMATA

1983年生まれ。2008年東京藝術大学大学院 先端芸術表現専攻 修了。東京在住。

人間以外の生きものや自然との関わりから生まれるもの、あるいはその関係性を提示している。

アンモナイトとタコを長大な進化の時を超えて出会わせる「進化への考察」、ヤドカリが世界各地の都市をかたどった透明な「やど」へと引っ越しを続ける「やどかりに『やど』をわたしてみる」、真珠母貝に小さな立体の核を挿入し、貨幣の肖像をモチーフにした真珠をつくった「貨幣の記憶」、「犬の毛を私がまとい、私の髪を犬がまとう」など、生きものと共に制作した作品を多く発表。

近年の主な展覧会に、2022-2023年「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」(森美術館、東京)、2022年「あいち2022」(愛知)、 2020-2021年「Broken Nature」(ニューヨーク近代美術館:MoMA)、2019年「AKI INOMATA: Significant Otherness 生きものと私が出会うとき」(十和田市現代美術館 、青森)、2019年「第22回ミラノ・トリエンナーレ」(トリエンナーレデザイン美術館、ミラノ)、「トロントビエンナーレ」(トロント、カナダ)、2018年「Thailand Biennale 2018」(クラビ、タイ) 、などがある。

作品の主な収蔵先に、ニューヨーク近代美術館、南オーストラリア州立美術館、金沢21世紀美術館、北九州市立美術館など。

Anais karenin

ブラジル生まれ、近年は日本を拠点に活動。 ブラジルに植民地時代以前から伝わる、薬効を持つ植物に関する知識体系を研究し、植物との親密な関わりを通して植物と人間との関係性を問い直している。 神話や植民地主義の歴史、言語、搾取、科学などさまざまな分野を横断してリサーチやフィールドワークを行い、香りやサウンドといった五感に訴える包括的な表現方法で、植物-石-物を新たな姿で捉える作品を制作している。 主な個展に「Things named [things]」 (The 5th Floor、東京、2023)、「Mediate Plants」 (Yebizo Meets 恵比寿映像祭、工房 親、東京、2023)、主なグループ展に「野良になる」(十和田市現代美術館、2024)、「The Senses of Plants」(Villa Merkel、ドイツ、2024)、「Gunma AIR」(群馬県立近代美術館、2024) など。サン・パウロ大学博士研究員、早稲田大学客員研究員及びティーチングアシスタントを歴任。

BCL / Georg Tremmel

ウィーンの応用芸術大学でペーター・ヴァイベルとともにメディア・アートを学び、ロンドンの王立芸術大学(RCA)でアンソニー・ダン、フィオナ・レイビーとともにインタラクション・デザインを学ぶ。コンピュータ・サイエンスのバックグラウンドも持ち、東京大学DNA情報解析研究室にて、がんゲノミクスの情報可視化に携わってきた。また、ハインツ・フォン・フェルスターのオリジナルBCLを参照し、また継続するものとして、アーティスティック・リサーチフレームBCL(バイオロジカル・コンピューター・ラボ)を結成。早稲田のmetaPhorest/岩崎秀雄研究室の長期アーティスト・イン・レジデンスおよび客員研究員。日本で最も素敵なバイオコミュニティであり、オープン・バイオ・ラボであるBioClub Tokyoを立ち上げ、BioHack AcademyやHTGAA (How to Grow Almost Anything.)のようなシンバイオ教育プログラムを主導してもいる。現在、ウィーンの応用芸術大学で芸術研究の博士号を取得中。

Henry Tan

FREAK Lab Thailand、metaPhorest のメンバー、ニューヨーク大学アブダビ校ゲノム・システム生物センター(CGSB)リサーチフェロー。生命とシミュレーションの境界に着目し、合成生物学、MR、脳刺激法、人工知能等の先進の科学技術が、いかに現実とシミュレーションの境界を曖昧にするかを探究している。彼の作品は、気候変動や地政学・地経学の要因によって絶えず変化する環境に、生命がどのように適応し交渉していくかを掘り下げる。2024年に予定しているプロジェクトに「Pillars of Creation」、「Sleep Is A Little Rest, Death Is A Little Growth」、「How to Explain Sleep to a Robot Cock」がある。

飯沢未央

摩美術大学大学院 デザイン専攻 情報デザイン研究領域 修了。プロジェクトディレクター、文化と生物学ディレクター。2021年からJR東日本文化創造財団所属

動物や植物に限らず、生命の挙動や個性に興味を持ち、デバイスアート、パブリケーションなど、多様なプロジェクトを手掛けている。2023年からズカンフ〜ザッシ『文化と生物学』を仲間たちと立ち上げ、ディレクションを担当。また本にまつわる事象への興味から、メディア何でも書店「TRANS BOOKS」の運営・企画も行う。

石橋友也

1990年生まれ. 2014年 早稲田大学大学院電気・情報生命専攻修了. 2023年IAMAS博士後期課程入学. 2012年よりmetaPhorestに参加。大学では生物学を学び、 金魚、漆、言語など自然と人為の境界に着目し、生物学の知見や人工知能といったテクノロジーの視点を交えながら、それらの性質、構造、歴史に迫る実践を行う。主な受賞に第23回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞(2021)、WIRED CREATIVE HACK AWARDグランプリ(2019)、第25回岡本太郎現代芸術賞入選(2022)等。 主な個展に「コトバノキカイ」(TOKAS hongo 2021)など。

岩崎秀雄

1971年 東京生まれ。metaPhorest主宰、早稲田大学理工学術院・教授。科学および芸術の一筋縄ではいかない界面・関係性に興味を持ち,生命をめぐる科学・思想・芸術に関わる表現・研究のプラットフォームmetaPhorestを2007年より運営。「生命美学」のコンセプトを掲げ、国内外で作品制作・研究発表を行うとともに、生物時計や形態形成に関する研究を行ってきた。アーティストとして、ハワード・リヒター賞(SICF)、オロン・カッツと共同でSynthetic Aesthetics採択 (NSF, BSCRC)、文化庁メディア芸術祭アート部門 優秀賞、生物学研究者として日本時間生物学会学術奨励賞、優秀若手研究者賞(文部科学省)、日本ゲノム微生物学会学術奨励賞など受賞。主著に『<生命>とは何だろうか:表現する生物学、思考する芸術』(講談社現代新書、2013年)。

植村和俊

2000年生まれ。早稲田大学大学院電気・情報生命工学専攻2年、岩崎秀雄研究室在籍。2021年からmetaPhorestに参加。養蜂場へフィールドワークを行いながら、そこで使用される道具に注目し、作品制作を行うことで人間とミツバチの関係性の脱構築を狙う。

切江志龍

1991年生まれ。博士(農学)。東京大学大学院農学生命科学研究科修了。
生物形態や植物と人間の関わりに関心をもち、2015年よりmetaPhorestに参加。

モネの描いたスイレンの源流を探るプロジェクトではフランスでフィールドワークを行うほか形態モデリングやDNA解析を駆使し作品と並行して研究論文も執筆するなど、植物学や農学の視点・文脈・手法を織り交ぜながら制作を行なっている。

現在はバイオ企業に勤務し生物材料を用いたプロトタイピングや生物学データの産業応用に携わる。またWebメディア『文化と生物学』編集メンバーとしても活動。
主な展示に、石田翔太・切江志龍グループ展「Earth Combinatoria-園芸と美術のラボラトワール-」kumagusuku、京都(2022)。

齋藤帆奈

現代美術作家。1988生。多摩美術大学工芸学科ガラスコースを卒業後、metaPhorest (biological/biomedia art platform)に参加し、バイオアート領域での活動を開始。現在は東京大学大学院学際情報学府博士課程に在籍(筧康明研究室)。理化学ガラスの制作技法によるガラス造形や、生物、有機物、画像解析等を用いて作品を制作しつつ、研究も行っている。近年では複数種の野生の粘菌を採取、培養し、研究と制作に用いている。主なテーマは、自然/社会、人間/非人間の区分を再考すること、表現者と表現対象の不可分性。

杉浦真也

1999年生まれ。修士(メディアデザイン)。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科修了。

北里大学理学部在学中、2021年より外部研究生としてmetaPhorestに参加した。金木犀の香りに関する文化誌調査と機能的な試験を学祭的に行い、香りに対する新たな感性価値を見出した。その延長として、香りが想起させる時間・空間の記憶を複数の言語体系に分離し、再構成する試みを進め、基礎デザインとしての応用を模索している。現在は、新たな感性価値をデザイン領域に開拓すべく、素材開発のプロジェクト「Cement Project」や、新たな素材を産生するための生産技術開発プロジェクト「Vleur」を通して、多岐に渡る活動を担っている。

藤岡慧

1997年前生まれ。早稲田大学大学院 電気・情報生命工学専攻修了。2020年よりmetaPhorestに在籍し、蚕を題材としたアート作品の制作・研究を行っている。

蚕と人間の関係性を問い直すことを目的に、蚕の生態的な特徴、蚕と人間が紡いできた習俗・宗教・芸術などの文化史的な側面からリサーチを行う。

松村寛季

1997年生まれ。2016年に早稲田大学先進理工学部に入学後、生命やアートに興味があることから、2020年よりmetaPhorestに参加。もとより3歳から競泳を始め、2018年にはフィンスイミングで全国優勝と世界選手権出場を経験。これまでの経験をもとに、ミジンコ泳ぎの開発と研究を行うパフォーマンスを行い、実践を通して微生物(ミジンコ)の世界を考察することを目的としている。主な展示に「SICF25」(スパイラルホール、2024)。

塚本隆大

東京芸術大学美術学部芸術学科を卒業後、東京大学大学院総合文化研究科 超域文化科学専攻(文化人類学)修士課程へ進学。現在は、東京大学大学院総合文化研究科 超域文化科学専攻(文化人類学) 博士課程に在籍。東京大学大学院卓越大学院グローバル・スタディーズ・イニシアティブ 卓越リサーチアシスタント。

芸術人類学の研究を行いながら、metaPhorest のメンバーとしても、リサーチや企画を実施している。