この度、WHITEHOUSE「ナオ ナカムラ」では、榎本八千代個展 『20050810』を開催
いたします。
榎本八千代は1967年埼玉県生まれ。20年前の2005年8月10日、当時4歳だった最愛の
ひとり息子 侑人さんを保育事故による熱中症で亡くしました。
やるせない思いを抱えたまま喪失の暗闇を約8年彷徨いましたが、それでも前を向いて生
きていかなくてはいけないと、少しずつ社会と関わりを持ちはじめたころ、46歳のとき
に京都造形芸術大学(現在の京都芸術大学)通信課程 美術科写真コースへ入学します。
無知からはじめた写真を1から学んでいくなかで、写真家の石内都氏の2つの作品と出会い
ました。
石内氏は確執の深かった母親の遺品と対峙し、母親として、また1人の女性として、関係
性を見つめ直した『Mother’s』(2002)や、1945年8月6日の広島で被爆者が肌身に纏っ
ていた遺品を透過光で撮影し続けている『ひろしま』(2007-)。
漠然と学びはじめた写真でしたが、榎本にとって石内氏の作品との出会いは、自分が写真
というメディアを選択した意味や今の自分のすべきことなどが線で繋がるきっかけとな
り、最愛の存在の喪失と向き合い可視化することを決めました。
在学3年目の2016年から約1年をかけて、”喪失と解放”をテーマに、見ることも触れるこ
とも処分することもできずに箱の中へ封印して約10年間そっと奥底へ仕舞いこんでいた息
子の遺品や息子の生きた生活の痕跡と対峙した本作品『20050810』の制作に没頭しま
す。
涙で滲むファインダーをのぞき、震える手で何度もシャッターを切ること、暗闇を彷徨う
やるせない思いと裏腹に鮮やかなインクを紙の上にのせること、そして、作品たちが展示
を通して繰り返し多くの人の目と感情に触れることは、榎本の人生と侑人さんが残した遺
品とを解き放つ作業であり、心の”手当て”であると感じます。
今展では、新たにプリントすることはせずに、2017年の初個展の際にプリントした当時
の姿のままの作品で再展示、再構成します。繰り返し展示を共にして多くの人の目と感情
に触れることで発生した色褪せや傷みは愛おしく、榎本の”喪失と解放”の痕跡でもありま
す。
榎本八千代による『20050810』をこの機会にどうぞご覧ください。
また、今展終了後の8月21日より、小伝馬町にあるギャラリー「Roonee247 fine arts」
にて、榎本の新作個展『家族写真』を開催予定です。そちらも併せてご覧ください。
中村奈央