この度WHITEHOUSEでは、期間限定で「WHITEHOTEL」を運営します。
「WHITEHOTEL」は文字通りホテルです。
WHITEHOUSEのある百人町にはたくさんのホテルがあります。そのほとんどはカップルを対象としたラブホテルです。百人町から職安通りを渡ると歌舞伎町があります。歌舞伎町にもたくさんのホテルがありますが、やはりそのほとんどはラブホテルです。
およそ40年前、歌舞伎町のラブホテルで複数の女性が殺害される事件がありました。今年の1月にも池袋のホテルでパパ活をしていたとされる男性が殺された事件がありました。これまで幾度となくラブホテルでは人が殺されています。そして言うまでもなく、ラブホテルやホテルでは頻繁に性交渉が行われます。そこにも大量の死が横たわっています。コンドームの中に排泄される精子。中絶によって拒絶される命。それらはホテルという特殊な磁場の中で、人間に翻弄された死です。
ノワール映画でもホテルで人がバンバン死にます。織田信長もホテルで殺されました。ホテルを舞台にした推理小説は日本でもたくさんの愛読者がいます。昔からホテルでは人がよく死にます。
しかしそれと同時に、ホテルは様々な愛を育む場所であるし、自分が今いる場所から離れて自分の生を再発見する場所でもあります。これらは対称に見えて深くつながり合っています。
批評家の浅田彰は著書「逃走論」において旧来的な強迫神経症・資本主義的なパラノ的生き方を捨てて、スキゾ的に逃走することを説きます。それはある種「住む」ことや、ただ「ある」という事を再考する必要がある、ということでもあります。家族や生活、愛、性、様々なもののモデルを解体する事から「生」を始める事、逃げることによってでしか獲得できない人の「生」のあり方。それらは極めて具体的な形で、2022年を生きる我々にとって逼迫したテーマとしてのしかかってきています。
コロナ禍は「住む」ということを部分的に有害化してしまいました。家が必ずしも安全領域ではないことを暴露してしまったのです。そして家族、恋人、友人などなど、人間関係と呼ばれるものは、皮肉なことにCOVID-19以上にウイルス的な存在として忌避されています。我々は今必死になって無人の空間に逃げ込もうとしています。しかし当然ながらこの社会に都合の良い無人の空間などありません。今多くの人たちが逃げなきゃいけない事は分かっているけれど逃げ方を間違っている、という状況なのかもしれません。
WHITEHOTELは1つの逃げ方を提供する場所です。それを考えるための隔離施設です。ホテルは人が寝たり逃げたりする場所です。故に、生と死との距離がグッと近づいてしまいます。しかし、その距離にこそ私たちの「生」を取り戻すためのきっかけがあるはずです。寝ることの死性や生性、また人間の「生」そのものに関わる生死性を今この瞬間にこそ体験していただきたいです。
料金システム、時間等はラブホテルのシステムを採用しています。最低で2時間です。その間は基本的に何をしていても良いです。コーヒーも出します。2時間という大きいことも小さいこともあるその有限の時間を使って、家族や生活や愛や性や関係や、とにかくそういう事をみなさんにやってもらいたいのです。是非、1人でも2人でも何人でも、各人が大切と思う距離を持ってWHITEHOTELにお越しいただけたらと思います。
涌井智仁