この度、WHITEHOUSEでは人工生命研究者団体ALTERNATIVE MACHINEによる展覧会「ALTERNATIVE MACHINE」を開催いたします。
展覧会前に作品の説明をすることは野暮ですが、複雑な構成なのでざっくりとした概要だけお知らせさせていただけたらと思います。
展覧会は2つの作品と2つの空間によって構成されます。
まず1つ目の空間であるWHITEHOUSEでは、「遅延記憶装置」と「進化する自律エージェント」が配置されます。
I
「遅延記憶装置」は、WHITEHOUSEをデータストレージとして扱い、音のパターンでデータを保存してく構造体です。「遅延記憶装置」はWHITEHOUSE空間内で保存され、外部の影響によって日々劣化していきます。
ブロックチェーン技術は「作品の所有権」に関しては保証されますが、「作品の唯一性」を保証する技術ではありません。「遅延記憶装置」はブロックチェーンを取り巻くコンセンサスを悪用し、「作品の唯一性」にメスを入れていきます。
保存された音波はデコードされ、NFTとして販売されます。
II
「進化する自律エージェント」は、ether(イーサリアム上の通貨)を糧に、ブロックチェーン上で自律的に自己複製し続けるスマートコントラクト(=エージェント)です。
このエージェントは自らの子孫を残すために活動しています。そのために必要となるエネルギー=etherは、NFTの販売報酬を得る事で補充されます。etherが一定量貯まるとエージェントは自己複製して子孫を残します。
エージェントはetherを得るために、オリジナルのNFTを生成し販売します。
それぞれの作品はNFT作品として、2つ目の空間であるNFTマーケット上で販売されますが、販売の開始は展覧会の開始(28日18時)と共に行われます。URLは開始と共に送らせていただきます。
昨今、NFTアート市場は拡大の一途を辿っていますが、NFTそのものをメディウムとして制作された作品は数少ないです。新しいメディアやテクノロジーが現れた時、我々はそれを安易に征服しようと考えてしまいます。iPhoneは動画を観るためのモバイルモニターだし、無線化したイヤホンから聴こえてくるのは、ハイレゾ化したマイケルジャクソンです。つまり、それまでの生活にフィットするように新しいテクノロジーをリフレームしているのです。日常生活におけるそのような動物的な危機反応は、人類の生存のためにむしろ必要な能力です。しかし、私たちは美術という思考方法を使って、人類を1から発明しているはずであり、新しいテクノロジーを征服することも従順に飼い慣らされることも必要ありません。新しいテクノロジーの悪用的な使用、それを今回は美術と呼ぼうと思います。
無機的なテクノロジーやアートオブジェクトに生命性をインストールするALTERNATIVE MACHINEの活動から、まずは正しい現在と美術を始めてみたいと思います。
涌井智仁